長期投資でリスクは低減しない
こんにちは、元外資系ファンドマネジャーのやすたろです。
今回は、長期投資でリスクは低減しないということについて説明していきたいと思います。
よく「長期投資によって収益は安定するため、負けるリスクが下げる」などといっている人がいますが間違えていますよ。
「どういうこと?」
今回はそういう初心者に向けて解説していきたいと思います。
そもそも投資で使う「リスク」と「リターン」の定義を正確に理解していますか?
まずは、そこから解説していきます。
リスクとリターン

「ハイリスクハイリターン」
日常でも使う機会も多いでしょう。
この意味を、「失敗したら大きく損するけど、上手くいけば大きく稼げる」と考え、リスクとは失敗したときの損失、リターンとは上手くいったときの利益と思っていませんか?
これ、間違いです。
リスクとリターンは正しい投資を行う上で最も重要な考え方の一つです。
ここでしっかりと理解してください。
リターンとは期待値としての利益
まずはリターンについて説明します。
リターンは利益のことです。
「だから成功したときの利益でしょ。なにが間違えているの?」
この場合、利益は利益でもその投資に対する“期待値としての”の利益になります。
例えば、サイコロの出目かける100円をもらえるゲームをすると、1が出て100円しかもらえない人もいれば、6が出て600円をもらえる人もいます。しかし、このゲームの期待値としての利益、リターンは350円となります。
このリターンですが、先月のリターンはいくらというように確定している収益を表すときにも使いますので、このブログでは、混同を避けるために将来の期待値としての利益という意味で使いたいときは期待リターンという言い方をします。
まあ、リターンは他でもよく耳にする言葉なので、どちらの意味で使われているか区別できるようになったほうがいいかと思いますが。。。
リスクとは不確実性のこと
リスクとは、不確実性のことです。
先ほどのサイコロの例でいうと、期待リターンは350円ですが、サイコロをふるまで自分がいくらもらえるかわかりません。
そして、自分がもらえる金額と期待値のばらつきが大きくなるほどリスクが大きいというのです。
確実に350円もらえるのであれば、ノーリスクです。
これが偶数だと出目かける700円もらえる、奇数だと出目かける700円支払うだとどうでしょうか?
これも期待リターン350円で同じですが、最大4200円のプラスから最小で3500円のマイナスとばらつきが大きくなったことがわかるかと思います。
そして、最初の例と比べてハイリスクというのです。
リスクといったら下振ればかりイメージしてそうですが、上振れすることもリスクなのです。
リスクを数字で表す
リターンのほうは年率5%とか10%とか具体的な数値で表していますが、リスクのほうはばらつきが大きいとか小さいとかざっくりしていますよね?
しかし、このばらつきを数値化することができるのです!
ここでは、過去の日経平均株価の月次リターンを例に、リスクとリターンを数値化していきたいと思います。

まず2000年1月から2020年4月までの月間のリターン243個をヒストグラムで表してみました。
平均値を中心に左右に広がるにつれて頻度が落ちてくる様子がわかるかと思います。
これを正規分布で近似するのです。
「正規分布とか難しそうで無理」
いろんなところから声が聞こえてきそうですね。
大丈夫です。
確かに数学的には難しいですが覚える必要ありません!(私も覚えていません)
大事なのは、これから説明する概念の理解だけです。

はい、これが日経平均株価の騰落率を正規分布で近似したグラフです。
足りないところや出っ張ったところもありますが、あくまで近似なので厳密に同じになるということではありません。
「じゃあ、なんで正規分布で近似するのか?」
それは、統計処理をしてリスクを数値化できるようにするためです。
正規分布で近似することでリスクを定量的に扱うことができるようになるのです。

正規分布を理解するために標準化された正規分布(標準正規分布)で説明していきます。
話が長くて飽きてきたかもしれませんが、もう少しお付き合いください。
リスクの概念は投資を理解する上で一番大事な考え方といっても過言ではないところです。
横軸はデータの値(シグマといいσと書きます)、塗られた面は確率を示しています。
この図でいいたいのは、
- 平均がゼロであること
- -1から1の間に68%のデータが収まること
- -2から2の間に95%のデータが収まること
- -3から3の間に99.7%のデータが収まること
ということです。
そして、先ほどの日経平均株価にこの正規分布を当てはめると、
平均が0.2%となり、1σが5.5%となります。
そこからなにが言えるかというと、
日経平均の月次リターンは、
- 平均が0.2%であること
- -5.3%から5.7%の間に68%のデータが収まること
- -10.8%から11.2%の間に95%のデータが収まること
- -16.3%から16.7%の間に99.7%のデータが収まること
どうです?
激しい相場をみていると無限に上がったり下がったりするのではないかと思いますが、実際は10%を超えた変動はほとんど起こらないということが確率的に確認できたかと思います。
そして、この1σの値を“リスク”と呼ぶのです。
この日経平均株価でいうところの5.5%ですね。
どうでしたか?
難しかったと思いますが理解できましたか?
正直、うまく説明できた自信がないので、わからないという人は他の記事を探してでも絶対に理解したほうがいいです!
長期投資によってリスクは増加する

ここからが本題ですね。
「長期投資によってリスクはどうなるのか?」
リスクの概念がきちんと理解できていればもうわかりますよね?
リスクとは期待値からの振れ幅、不確実性のことです。
「明日の株価と10年後の株価どちらが不確実ですか?」ということです。
明日の株価より10年後の株価のほうが予想しやすいと考える人はいないですよね?
はい、長期投資によって不確実性は増えて、リスクは増加するのです。
ルートT法とは
この長期投資によってリスクがどう増えるかを数値で表すこともできます。
「また、難しい理論かよ。もうお腹いっぱい」
安心してください。今回は使い方だけ覚えておけば応用がききます。
長期投資によるリスクの測定法、それをルートT法といいます。
使い方は簡単!求めたリスクに期間のルートをかけるだけです。
例えば、月間のリスクが5%のとき、年間のリスクは
5% x √12ヶ月 = 17.3%
年間のリスクが20%のとき、10年間のリスクは
20% x √10年=63.2%
となります。
どうです?
簡単でしょ?
長期投資によって損する確率は下がる

長期投資によって不確実性が高まり、リスクが高くなる。
なのに、なぜ長期投資をすすめるのでしょうか?
実は、長期投資によってリスクは高くなりますが、損する確率は下がるのです。
「どういうこと?」
はい、解説していきます。
例として、年間の期待リターンが5%、リスクが15%の商品に10年投資することを考えます。
まず、1年間で損する場合のσが−0.3以下の場合なので、損する確率は38%程度です。
ややこしくなるので計算は省略しますが、正規分布の考え方から求めることができます。
興味があれば調べてみてください。
一方、10年間の期待リターンが63%、リスクが47%となり、損する場合のσは−1.3以下の場合となり、損する確率はなんと10%弱となります。
「なぜ長期投資によってリスクは大きくなるのに損する確率は下がるのか」
答えは、期待リターンの上昇スピードとリスクの拡大スピードの違いにあります。期待リターンはT倍で増えていきます。期間が2倍になったらリターンも2倍、10倍になったらリターンも10倍です。
一方、リスクはルートT倍でしか増えていきません。
よって、長期投資によってリスクは大きくなるが、期待リターンの増加のほうが大きいため、結果として損する確率は低下することになるのです。

今回のテーマのまとめ
以下が今回のテーマのまとめになります。
主張:長期投資でリスクは低減しない
理由:期間が長くなるほど不確実性は高まるため
補足:でも、損する確率は低下する
最後までみていただき、ありがとうございました。
ご意見などありましたら、連絡いただければと思います。
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