こんにちは、元外資系ファンドマネジャーのやすたろです。
2020年4月20日、原油価格が史上はじめてマイナスになりました。
コロナウイルスによる需要の減少で原油の貯蔵施設の容量が限界に近づいているため、原油を引き取ってもらうのにお金を払う必要があるということです。
このニュースをみて、
「今はコロナショックの影響による需要減だから、原油価格の低下は一時的。今の安い価格で買い込んで、上昇したところで売り抜ける」
とか、考えている個人投資家はいませんか?
この投資、大失敗するかもしれませんよ?
なぜならあなたはコモディティの世界を正確に理解していないから。
今回は、昨今の原油の動きを例にとって、コモディティ投資は投資にむかないということを説明させていただきます。
コモディティは先物の世界
まず、最初にコモディティ投資の主戦場は先物市場であるということを説明します。
先物取引とは、将来のある時点で商品の受け渡しを行う契約のことです。
通常の株式の購入などは、お金を払うと数日のうちに株券が手に入ります(今は電子化されていたりしますが)。
しかし、原油などのコモディティの場合、実物があるため輸送にも手間とコストがかるため、頻繁に受け渡しを行うことは経済的ではないのです。
そこで先物市場を利用するのです。
例えば、今から3ヶ月先の8月に受け渡しを行う原油の価格を売買するというように。
実需側からすれば今すぐ必要でない商品の場合は長期間保管する手間が省けますし、価格を今決めておくことで将来の価格変動のリスクを避けることができます。
一方、投資家からしてもメリットはあります。
先物での売買であれば、いちいち実物の受け渡しをしなくて済むからです。
価格が上がると思えば3ヶ月先物を購入して、輸送の期日が来る前に売却してしまえば輸送など考える必要がなくなります。
また、決済を伴わないため、手元資金以上の商品を購入することもできます(レバレッジといいます)。
マイナスになったのは超短期の原油価格
それでは、話を原油に戻します。
ニュースで原油価格が史上はじめてマイナスになったと騒がれていますが、どの価格がマイナスになったかちゃんと理解していますか?
WTIとかブレンドとか、そういう話ではありません。
先物の期日の話です。
この価格がマイナスになったと騒がれている原油先物は期日があと数日に迫った超短期の先物価格です。
投資家たちが値上がりすると見込んで先物で原油を買い込んでいたけど、期日が間近となり最後は投げ売らざるを得ない状況となり売りが売りを読んで価格がマイナスまで低下したということです。
想像してください。
何トン、何百トンという原油が自宅やオフィスに送られてきたらもう事件ですよね?
価格がいくらであっても決済しないといけません。
逆に、受け渡しの期日までに余裕がある先物価格はそこまで値下がりしてはいません。
原油価格が値上がりしても損する理由

CME Groupのホームページから足下の原油先物の期日ごとの価格を引っ張ってきました。
短い期日の価格が安く、長くなるほど高くなっていることがわかります。
(作成時点でマイナスになった5月限の原油先物は満期になってしまいました)
この先物価格のカーブ形状のことをコンタンゴといいます。
なぜ原油価格が上昇しても損をするのか?
カーブの形状がコンタンゴだからです。
投資をするとき、ある程度の投資期間を考え満期が長めの先物を売買します。投資家は現物の受け渡しなんてしたくないですからね。
例えば、原油価格の値上がりを考えて9月満期の原油先物を購入すると、上図の時点では25.82ドルで買うことになります。
そして、3ヶ月後に値動きがなければいくらで買い戻せると思いますか?
「買った値段である25.82ドル?」
違います。
期近である6月満期の原油先物と同じ14.04ドルです。
上図時点での9月満期の先物は4ヶ月後に受け渡す契約の価格です。
それが、3ヶ月たったら9月満期の先物価格は1ヶ月後に受け渡す契約になります。
上図でいうところの6月満期と同じということです。
ということは、3ヶ月で原油先物の価格が14.04ドルから25.82ドルまで84%上昇してトントンということです。
あなたはそれ以上の値上がりを期待しているのですか?
逆に足下の需要が高くて、そのうち値段が下がると想定されている場合は、期日が長くなればなるほど価格が下がっていくバックワーデーションのいう形状になることが多いです。
期日が近い先物価格だけをみて、割安割高と判断できないということです。
ETFで原油に投資していたら先物価格は関係ない?
いえいえ、ETFに組み込まれている原資産は先物になります。
ETFのなかで、期日が長い先物を買って、満期が近づいたら期日の短い先物を差金決済し、期日が長い先物を買い直すというオペレーションを内部で延々としているのです。
現物での保管を考えない限り、コモディティに投資をするということは先物価格に左右されるということです。
もちろん現物での取引は無駄なコストが多く発生するため、おすすめしませんよ。
コモディティ投資をおすすめしない理由

私は個人投資家が原油を投資対象とすることをおすすめしません。
それは、原油に限らず金など他のコモディティについても同様です。
なぜなら、先ほど説明したように先物市場のことを正確に理解していないと勘違いで大怪我をする恐れがあるからです。
「指数は上昇しているのに、なぜか自分の資産は増えない」
そういうことが起こり得るからです。
そして、大損した後に仕組みに気付いて、そんな勝負なら最初からしなかった!
と後悔してほしくないためです。
また、そもそもコモディティ自体に資産としての魅力がないということもできます。
なぜなら、キャッシュフローが資産の裏づけになっていないからです。
株式や債券の場合は、将来のキャッシュフローが資産価格の裏づけとなって理論価格を計算できます。
しかし、コモディティの場合は、受給で価格が決まるだけで保有し続けることによるメリットというのはありません。
「インフレヘッジにコモディティを保有する」
そういう意見も聞きますが、株式自体がインフレに対応した金融商品です。
インフレして物価が上昇したら企業業績も全体でみると同じように伸び、株価に反映していきます。
以上より、私は個投資家のポートフォリオにコモディティを入れないほうがいいと考えます。
今回のテーマのまとめ
・コモディティ投資の主戦場は先物市場
・原油価格は上昇しても損をするかもしれない
・個人投資家のポートフォリオにコモディティは必要ない
最後までみていただき、ありがとうございました。
ご意見などありましたら、連絡いただければと思います。
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