こんにちは、元外資系ファンドマネジャーのやすたろです。
株価の割安割高を測定する評価手法として、PERやPBRというのが有名です。みなさんの多くも知っている指標ではないでしょうか?
知らない人向けに簡単に説明しますと、
PER(Price Earnings Ratio)は株価収益率とも呼ばれ、株価が利益の何倍になるかということです。
例えば、1株あたりの利益が5円で株価が100円であればPERは20倍になります。
PBR(Price Book-Value Ratio)は株価純資産倍率のことです。
株価が簿価(会社の資産)に対して、何倍の価値があるかということです。
PBRが1倍をきっていれば、解散したとしても株主に利益がある、と言うこともできます。
利益に注目したPER、資産に注目したPBR、どちらも手軽に使用できますが、どちらも見落としているものがあります。
それは、将来の成長性です。
足下の財務諸表を使って計算できるPERもPBRも将来の成長という不確実な要素は排除されています(まー、それによってだれが計算しても同じという客観的な指標になり得ているのですが、、、)。
しかし、足下の財務状況が同じだとしても、将来の成長性が高い会社も低い会社も同じ価格であるべきだ、ということはできないですよね?
この将来の成長性という項目を理論価格に反映させるためには、現在価値という考え方を知る必要があります。
現在価値の考え方
今100万円もらうのと、1年後に100万円もらうのはどちらがいいですか?
現在価値、むずかしそうに聞こえるかもしれませんが、考え方はとてもシンプルです。
要は、「今100万円もらうのと、1年後に100万円もらうのはどちらがいいか?」というだけです。
「手元にあったら使っちゃうかもしれないから1年後のほうがいい。」って?
なかにはそういう人もいるかもしれませんが、合理的な人は今の100万円が良いって考えるんです!
なぜなら、今の100万を1年間貯金したら利息がもらえるから。
例えば、金利が3%として(今はそんなに高くないって?)1年間預けると、今の100万は1年後には103万になります。
よって、今の100万と1年後の103万は同じ価値といえます。
そして、金利が3%で貯金した場合の1年後の103万の現在価値は100万となります。
どうです?
簡単でしょ?
リスクが高くなると割引率も高くなります
さきほどは貯金という安心な預け先でしたが、これが知り合って間もない少し胡散臭い知人とかだったらどうでしょうか?
銀行の金利が3%のなか、「1年後の103万にして絶対返すから貸して」と言われても貸さないですよね?
じゃあ、いくらなら貸すのか?
相手の信用状況にも依りますが、「じゃあ、200万にして返してくれるなら」というように銀行の預金より高いリターンを要求することになるでしょう。
この貯金の場合の3%や胡散臭い知人の場合の100%を「割引率」と言います。
将来の金額に対して割引率分のリターンを求めているということです。
この割引率、相手が信頼できないほどが高くなっていきます。
貸したお金が帰ってこないかもしれないリスク(クレジットリスク)に対して、期待リターンの上乗せが発生したのです。そしてこの上乗せ部分をリスクプレミアムといいます。
銀行の金利を無リスクとすれば、97%(100%ー3%)がクレジットリスクによるリスクプレミアムと考えます。
現在価値の考え方を使ったバリュエーション(理論価格の求め方

「で、現在価値の考え方はわかったけど、これと理論価格はどう関係するの?」
そろそろこういう声も聞こえてきそうですね。
投資家は、将来の利益が期待できるから資金を投下するのです。
投資元本と将来の利益を比較して、投資家の期待リターンより大きかった場合に投資を行います。
いいかえれば、期待リターンで割引いた将来の利益の現在価値の合計(理論価格)が株価より高ければ投資を行うということです。
$$理論価格=\frac{E_1}{1+R}+\frac{E_2}{(1+R)^2}+…+\frac{E_n}{(1+R)^{n-1}}$$
$$E_i=i年後利益$$
$$R=期待リターン$$
そして、将来の成長率をGとして一定で成長するとすると、
$$E_2=E_1 \times (1+G)$$
$$E_k=E_1 \times (1+G)^{k-1}$$
となり、
$$理論価格=\frac{E_1}{1+R}+\frac{E_2}{(1+R)^2}+…+\frac{E_n}{(1+R)^{n-1}}
\\ =\frac{E_1}{1+R}+\frac{E_1}{1+R}\times\frac{1+G}{1+R}+…+\frac{E_1}{1+R}\times\frac{(1+G)^{n-1}}{(1+R)^{n-1}}
\\ =\frac{E_1}{R-G}$$
高校のときの数学で習った無限等比数列の和です。
高校生のときは数学なんていつ使うんだ!と思ったものですがこういうときに使うんですね。
これで将来の成長を加味した理論価格が求められるようになりました。
業績予想によって理論価格を求めることは無理ゲーである
あとは将来の期待リターンRと成長率Gを求めるだけです。
そして、RとGを見積もって、理論価格を求めてみると、あることに気付きます。
「理論価格と実際の株価の乖離、デカすぎじゃない??」
平気で今の株価の半分が理論価格となったり、逆に倍となったりと、実務で使えるレベルではないのです。
なぜなのか?
それは、RとGのちょっとした予想の差で理論価格が大きく変わってくるためです。
例えば、期待リターンRが7%として、成長率Gを6%と見積もった場合と、成長率Gを5.5%と見積もった場合では、理論価格は50%も違ってきてしまいます。
成長率の予想の差が0.5%ズレていただけで理論価格は大幅にくるうということです。
実際は、成長率も一定ではないため、長期的な利益を“正確”に予想する必要がでてくることを考えると、業績予想による理論価格を求めることはさらに難しくなり、もう無理ゲーといってもいいでしょう。
現在価値によるバリュエーションをすることのメリット
では、なぜ現在価値によるバリュエーションを紹介したのか?
理解することのメリットは2つあります。
1つ目は、業績予想から株価を予想することは難しいということを改めて認識するためです。
このブログでは、将来の予想はプロでも難しい。
だから分散してインデックス投資をしましょうということを主張しています。
しかし、あわよくばと企業分析でより大きな利益を求めようとしている人もいたのではないでしょうか?
そしてもし、あなたがそう思っていたとしても、現在価値によるバリュエーションの考え方を理解した今、やろうとしていることがいかに無謀だったかと認識できたのではないでしょうか?
2つ目は、将来の業績が予想できないとしても割引率ぶんのリターンを得ることができると理解するためです。
業績予想から株価の割安割高を判断することは難しい。そうであれば、逆に今の株価が理論価格と等しいと考えるのです。
そうすると、一年経つごとに株価は割引率ぶんだけ価格が上昇することになります。
そして、この割引率はとったリスクによって(リスクプレミアムとして)高まるため、リスクをとることのみがリターンの源泉になるということができるのです。
今回のテーマのまとめ
・PERやPBRは将来の成長が加味されていないため、現在価値の考え方を理解しましょう。
・ただ、現在価値によるバリュエーションを理解できたからといって、正確な理論価格の予想は無理ゲーです。
・しかし、現在価値によるバリュエーションの考え方を理解することで、リスクのみがリターンの源泉になるということを痛感することができるでしょう。
最後までみていただき、ありがとうございました。
ご意見などありましたら、連絡いただければと思います。
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